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大阪高等裁判所 昭和27年(ネ)436号 判決 1952年11月28日

控訴人 原告 大西末子

被控訴人 被告 大阪府知事

主文

原判決を取り消す。

本件を大阪地方裁判所に差し戻す。

事実

控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人が昭和二十六年三月六日訴外大西仙太郎所有の昭和二十五年度産米銘柄旭等級五等数量三石〇〇六九につき、控訴人をその管理者として控訴人に収用令書を交付してした収用処分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を、被控訴人指定代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、控訴人において「被控訴人は昭和二十六年三月六日控訴人の夫訴外大西仙太郎の所有する、昭和二十五年度産米銘柄旭、等級五等、数量三石〇〇六九について、控訴人をその管理者として、控訴人に収用令書を交付して収用処分をした。しかし控訴人は右主要食糧の管理者ではない。従つて右収用処分は違法である。控訴人は右収用令書に令書の交付を受くべき者として記載せられ、右令書に基いて右主要食糧の引渡を強制された。その際の受領調書にも所有者又は管理者として控訴人が表示されているから、控訴人は本件収用処分の取消を求める法律上の利益を有する。」と述べ、被控訴人指定代理人において「被控訴人が控訴人の主張するように、控訴人を管理者として控訴人に収用令書を交付して収用処分をしたことは争わない。控訴人は右主要食糧の管理者であつて本件収用処分には違法はない。」と述べた外、原判決摘示のとおりであるから、これを引用する。

証拠として、控訴人は甲第一乃至三十三号証を提出し、乙第一、二号証は不知、第三乃至五号証は成立を認める。第六号証は不知と述べ、被控訴人指定代理人は乙第一乃至六号証を提出し、甲第一乃至四、第六乃至十五、第十八乃至三十一の各号証の成立を認め、第五、第十六、第十七号証はいずれも不知と述べた(甲第三十二、第三十三号証は認否未了)

理由

被控訴人が昭和二十六年三月六日訴外大西仙太郎所有の、昭和二十五年度産米銘柄旭、等級五等、数量三石〇〇六九につき、控訴人をその管理者として控訴人に収用令書を交付して収用処分をしたことは当事者間に争いがない。そして控訴人は、控訴人が右主要食糧の管理者でないことを主張し、これを本件収用処分の違法の一に数えて右処分の取消を求めているのである。これに対し、原審は、収用された米が控訴人の夫大西仙太郎の所有及び管理に属することは控訴人の自認するところであるから、本件の収用処分について法律上の利害関件を有する者は控訴人の夫仙太郎であつて、控訴人は事実上はともかく法律上はこれにつき利害関係を有するものと認めることはできない。と判断して控訴人の訴を却下した。

そこでまず、控訴人が当事者適格を有するかどうかを考えてみる。食糧緊急措置令第一条及び第二条によれば、主要食糧の収用処分はその所有者が売渡命令に応じないときに、所有者に収用令書を交付して行うのであるが、所有者が知れない場合その他所有者に交付することが著しく困難な場合には、権原に基いて当該主要食糧を占有する者に収用令書を交付するのであり、この権原に基いて当該主要食糧を占有する者がすなわち管理者と呼ばれるのである。そして食糧緊急措置令施行規則第四条によれば、収用令書の交付を受くべき者の住所及び氏名は、収用すべき主要食糧の所有者の住所及び氏名(所有者が知れないときは管理者の住所及び氏名)とともに、令書の記載要件であり、かつ、それは第一の記載要件とされている。一方食糧緊急措置令第三条と第五条の明定するところによれば、令書の交付を受けた者(所有又は管理者)は、当該主要食糧の引渡義務を負担するが、管理者に令書が交付された場合には、一定の手続が執られたときに、所有者に引渡義務が発生する。すなわち、政府は管理者に令書を交付したときは、遅滞なく所有者にこれを通知する。この通知を受けた所有者は、通知を受けたことによつて初めて、その所有する当該主要食糧の引渡義務を負うに至るのであつて管理者から令書発付の事実を知らされたとしても、政府から右の通知を受けない限り、所有者は令書に基く当該主要食糧の引渡義務を有しないのである。逆に、当該主要食糧の管理者は、令書の交付を受けなくとも、政府から令書発付の通知を受けることによつて、一定の場合に当該主要食糧の引渡義務を課せられることがあるのである。されば令書の交付自体によつて、当該主要食糧の引渡義務を課せられているのは、所有者であると管理者であるとにかかわらず、令書の交付を受けた者以外にはないわけである。以上の諸点から考えると主要食糧の収用処分は収用令書の交付によつてなされる要式行為であり、管理者に令書が交付されたときは、その者が収用処分の名宛人、すなわち収用処分を受ける主体であり、所有者は右収用処分の相手方ではなく、これについて利害関係人の立場に立つものというべきである。収用令書の交付を受けた管理者は右に述べたように当該主要食糧について引渡義務を課せられているのみならず(1) 当該主要食糧を現状のまゝ保管する義務を負い、これについて新たな処分をなすことができないし、(2) 令書の交付当時現に存した法律上の原因に基いて所有者又は管理者に変動を生じたときは、このことを農林大臣又は地方長官に報告する義務があり、(3) 令書の交付を受けた者で引渡義務者たるべき者は、滅失その他やむを得ない事由に因つて収用に応ずることができなくなつたときは、これを農林大臣又は地方長官に報告しなければならない。以上は食糧緊急措置令第四条、第五条同令施行規則第八条、第九条の諸規定が、令書の交付を受けた管理者に義務附けている事柄であり、これらの義務は令書の交付を受けたことに随伴して当然発生するわけである。そうだとすれば、主要食糧の収用令書の交付を受けた者は、収用令書を交付してした収用処分の違法を主張するについて法律上の利益を有し、従つて控訴人は本訴につき原告となる当事者適格を有するもといわなければならない。さればこれと異なる見解の下に控訴人の訴を却下した原判決は取消を免れない。

よつて民事訴訟法第三百七十八条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長判事 神戸敬太郎 判事 平峰隆 判事 藤井政治)

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